技術記事 · 2026年10月29日
作業者の申告と身体のサインは一致しない:現場における眠気の自己評価のバイアス

掘削リグODN-1での3か月間のモニタリングで、73人の作業者が眠気の自己評価に2,668回回答し、客観的な注意テストを566回受けました。自己評価の83%は「眠気はほとんどない、またはまったくない」でした。一方、同じ期間の注意テストの57%は成績が低いという結果でした。作業者の自覚と実際のパフォーマンスとのこのギャップが、身体を通じて疲労を継続的に測るという考え方の出発点です。
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なぜ作業中の疲労を測るのか
航空、石油化学、鉄鋼、運輸などの分野では、事故やインシデントの60〜90%がヒューマンエラーに起因するとされています(Xuecai and Deyong, 2018)。その多くは、その時点での作業者の能力と作業の要求とのアンバランスから生じます。疲労は、このバランスに最も大きく影響する要因の一つです。反応を遅らせ、注意力と短期記憶を低下させ、判断力を損ないます(Wong and Swanson, 2022)。
しかし、産業界で最もよく使われている指標は事後的なもので、事故が起きた後にそれを測定します(Tang et al., 2018)。また、ヒューマンファクターの評価は、分析者の見立てや作業者本人の自己評価に頼りがちです(Ahn et al., 2022)。インシデントを未然に防ぐには、シフト全体を通じて作業者の状態を把握する必要があります。本研究では、その役割を担いうる3つの情報源、すなわち自己評価、客観的な注意テスト、バイタルサインを比較しました。
研究の方法
データは、Foresea社が運用する掘削リグODN-1で、造船所での定期整備期間中に、Dersalis、Shell、Ocyanの研究開発プロジェクトとして収集しました。3か月間、73人の作業者がシフト中に光学センサーと加速度計を備えた手首装着型デバイスを着用し、心拍数、心拍変動、皮膚温、動きを記録しました。データはモバイル回線のゲートウェイを通じてプラットフォームに送信し、ブラジルの個人情報保護法(LGPD)に従って取り扱いました。
作業者は同じデバイスで、2種類の評価に回答しました。
- 眠気の自己評価。眠気を主観的に測る基準であるカロリンスカ眠気尺度(KSS)をもとにした尺度です(Martin et al., 2023)。現場で使いやすいよう、Kaida et al.(2006)が検証した日本語版と同様に9段階から5段階に簡略化しました。3が「覚醒」と「眠い」の境目です。
- 注意テスト(PVT)。精神運動覚醒検査(PVT)は視覚刺激への反応時間を測るもので、覚醒度の低下を検出する行動指標のゴールドスタンダードとされています(Khitrov et al., 2014; Kerkamm et al., 2022)。作業のルーティンに組み込みやすい3分間版を使用しました。
バイタルサインについては、病院で臨床状態の悪化を早期に捉えるために使われるNEWS 2(National Early Warning Score)をもとにリスク指標を作成しました(Royal College of Physicians, 2017)。各測定値には正常範囲からの離れ具合に応じてスコアを付け、範囲はマンチェスター・トリアージ・システムに沿って色分けしました。
分析対象はシフト中に収集したデータのみとし、研究者は介入していません。体動によるノイズを含む信号区間は除外しました。収集したデータは、心拍数・心拍変動の測定値11万5,000件以上、皮膚温の測定値約16万7,000件、自己評価2,668件、注意テスト566件です。
作業者の申告とテストの結果

ほとんどの作業者は「問題ない」と答えていました。回答の83.1%は尺度のレベル1〜2で眠気の兆候はなく、レベル4〜5はわずか5.9%でした。一方、注意テストの結果は異なり、57.4%が低い成績、27.6%が中程度、高い成績は15.0%にとどまりました。
時間帯も一致しませんでした。眠気が強いという自己評価は、シフト交代に近い午後8時ごろと午前6時ごろに集中していました。これに対し、注意テストの成績が最も低かったのは午前1時から2時の間でした。
最も素直な解釈は、作業者は自分の疲労を過小評価しがちだということです。さらにもう一つの要因があります。作業の合間に監督なしで受ける注意テストは、覚醒度以外のものも反映しうるのです。早く作業に戻りたいという焦り、中断、テストへの意欲の低さも成績を下げます。つまり、どちらの指標も単独では作業者の実際の状態を確実には表せません。
バイタルサインからわかったこと
シフト中の平均心拍数は毎分82拍で、測定値の大半は70〜90 bpmの範囲でした。皮膚温の平均は30.2 °Cで、30〜33 °Cに集中していました。
一般集団向けの臨床的な基準範囲でリスク指標を適用すると、正常範囲に収まった測定値はごく一部でした。これは作業者の大半が危険な状態にあったという意味ではありません。整備作業の身体的・代謝的な負荷によって、その現場での「正常」がずれるということです。臨床の基準をそのまま使うとアラートが多くなりすぎ、安全のための防護策としての価値が失われます。
実務上の結論は、アラートのしきい値を現場ごとに、理想的には人ごとに、主な作業内容と作業者の生理的な限界を踏まえて調整する必要があるということです。
疲労管理で何が変わるか
- 自己評価だけでは防護策として機能しません。作業者の参加を促すには役立ちますが、最も重要な場面でこそ疲労を過小評価してしまいます。
- 注意テストは引き続き有用なツールです。感度が高く客観的で、シフト開始時、アラートの後、監督のもとなど、文脈を踏まえて実施すると効果が高まります。スポットチェックとして使えば、作業者の状態を確認するのに役立ちます。
- 継続的な生理データが全体像を補います。しきい値が現場に合わせて調整されていれば、作業者の回答に頼らず、作業を中断することもありません。
こうした知見から、Dersalisは作業者に尋ねるのではなく身体を通じて疲労を測る、心拍変動にもとづく疲労検知モデルを開発しました。手法と現場での検証については、このシリーズの2本目の記事で紹介しています:作業を止めずに疲労を検知する:副交感神経活動の役割。
本研究の限界
本研究は記述的研究であり、単一の現場で、定期整備期間中に、監督なしで実施したテストにもとづいています。心拍数と皮膚温の範囲は個人に合わせた調整をせず、集団の基準値と比較しました。結果は傾向を示すものであり、ほかの現場や監督下でのテスト手順で確認する必要があります。
関連情報
本記事は、DersalisがShell BrasilおよびOcyanとの研究開発プロジェクトで作成したTechnical Paper 1(2024年)を改訂したものです。 作業者のデータは匿名化し、ブラジルの個人情報保護法(LGPD)に従って取り扱いました。 PDFをダウンロード
参考文献
- Ahn, S. I., Kurt, R. E. and Akyuz, E. (2022). Application of a SPAR-H based framework to assess human reliability during emergency response drill for man overboard on ships. Ocean Engineering, 251, 111089. https://doi.org/10.1016/j.oceaneng.2022.111089
- Kaida, K., Takahashi, M., Åkerstedt, T. et al. (2006). Validation of the Karolinska Sleepiness Scale against performance and EEG variables. Clinical Neurophysiology, 117(7), 1574–1581. https://doi.org/10.1016/j.clinph.2006.03.011
- Kerkamm, F., Dengler, D., Eichler, M. et al. (2022). Measurement methods of fatigue, sleepiness, and sleep behaviour aboard ships: a systematic review. International Journal of Environmental Research and Public Health, 19(1), 120. https://doi.org/10.3390/ijerph19010120
- Khitrov, M. Y., Laxminarayan, S., Thorsley, D. et al. (2014). PC-PVT: a platform for psychomotor vigilance task testing, analysis, and prediction. Behavior Research Methods, 46(1), 140–147. https://doi.org/10.3758/s13428-013-0339-9
- Martin, V. P., Lopez, R., Dauvilliers, Y. et al. (2023). Sleepiness in adults: an umbrella review of a complex construct. Sleep Medicine Reviews, 67, 101718. https://doi.org/10.1016/j.smrv.2022.101718
- Royal College of Physicians (2017). National Early Warning Score (NEWS) 2: standardising the assessment of acute-illness severity in the NHS. London: RCP.
- Tang, K. H. D., Dawal, S. Z. M. and Olugu, E. U. (2018). A review of the offshore oil and gas safety indices. Safety Science, 109, 344–352. https://doi.org/10.1016/j.ssci.2018.06.018
- Wong, I. and Swanson, N. (2022). Approaches to managing work-related fatigue to meet the needs of American workers and employers. American Journal of Industrial Medicine, 65(11), 827–831. https://doi.org/10.1002/ajim.23402
- Xuecai, X. and Deyong, G. (2018). Human factors risk assessment and management: process safety in engineering. Process Safety and Environmental Protection, 113, 467–482. https://doi.org/10.1016/j.psep.2017.11.018